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オムロン株式会社 駅務システムプロジェクトマネジメント事例   

 問題の可視化と解決への取り組み 
プロジェクトの実行において問題の発生は不可避であり、プロジェクトの混乱を防止する
ためには問題可視化(発見)と解決を如何に迅速に行うかがキーとなる。
問題の可視化と解決は、プロジェクトマネジメント活動そのものへの要求であるといえる。
特に大規模なシステム開発プロジェクトにおいては、問題を個別に取り扱うのでは
全く不十分であり、問題の可視化と解決の仕組みをシステマチックに構築し実践する必要がある。
本項では、オムロン株式会社で行われた、問題の可視化と解決の仕組みに
着目して取り組んだ、ある大規模システム開発プロジェクト事例を紹介する。
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 導入背景  オムロン株式会社ソーシアルシステムズ・ソリ
ューション&サービス・ビジネスカンパニー公共
ソリューション事業部では、駅務機器(自動券売
機、自動改札機など)および駅務機器相互、その
他情報処理機器からなる駅務システムを中心とし
た事業を行なっている。
駅務事業におけるIT化が急速に進展してきてい
る中で、2000年10月に関東で共通乗車カードシ
ステム(パスネット®)が導入された。
関東共通乗車カードシステムは、関東圏16電鉄
間で共通乗車カードの相互運用を可能にするとと
もに、収入管理、不正防止という各種業務システ
ムを同時に実現するものであった。
本システムは、複数の電鉄およびメーカーが連
携し開発を進めたが、開発範囲は非常に大きく、
オムロンが新規開発あるいは改造する駅務機器だ
けでも十数機種、数千台にのぼった。これら機器
の開発およびシステムとしての動作保証を期日ま
でに完了させるためにマトリクスマネジメント体
導入背景制に基づく大規模な社内プロジェクトを実行した。
 導入前の課題  本プロジェクトの最大の目標は、システムを定
められた期日に問題なく稼動させることであり、
そのためには機器個別の新規機能開発や改造とと
もに電鉄間で横断的なシステム機能を実現する必
要があった。また、関東共通乗車カードシステム
開発作業と並行して2000年問題など同時に対処
が必要となる課題を取り扱う必要があった。
慎重な検討の結果、組織横断的な社内プロジェ
クトを発足させることとなったが、当時の組織と
しては過去に例がない大規模かつ複雑なプロジェ
クトとなった。そこで、「プロジェクトの混乱を防
止するためには問題の可視化と解決のスピードア
ップがポイント」という基本方針の下、社外コン
サルタントの支援を受け、プロジェクトマネジメ
ントの強化に取り組んだ。特に重点的に取り組ん
だ課題は以下の3点である。
1. プロジェクトマネジメント体制の構築
多数の案件を効率良く扱え、かつ統制がとれる
マネジメント体制の構築が必要であった。
2. マネジメントプロセスの充実
問題の早期発見と対処のためには、プロジェク
トの現状把握とマネジメントアクション実行のプ
ロセスが明確にかつ確実に実行できなければなら
ない。
3. マネジメント支援ツールの導入・活用
大規模プロジェクトでは、コミュニケーション
や取り扱う情報量が膨大となり、客観的な現状把
握が難しくなる。この問題を解決するために、効
果的な支援ツールの導入が求められた。
 実施内容  1. プロジェクトマネジメント体制の構築
本プロジェクトは、マトリクスマネジメントを
基本としたプロジェクトマネジメント体制とした。
これは、①関東共通乗車カードシステム開発作業
と並行し、2000年問題や運賃改訂など様々なイ
ベント対応が発生する、②システム全体の共通仕
様とともに電鉄各社の個別要求仕様を取り扱わな
ければならない、といった複数案件の同時処理、
関連しあう要求や制約に対する制御が必要となっ
たためである。
本プロジェクト体制では、電鉄各社とイベントや
作業対応を上位層、電鉄各社と機種単位での開
発・改造対応を下位層とする2階層のマトリクスマ
ネジメント体制を構築した。図1に本プロジェクト
体制のイメージを示す。
マトリクスマネジメント体制では、人材の有効利
用が可能などの長所があるが、指揮命令系統が複
雑になり、縦横プロジェクト間における葛藤がお
きやすくなるなどの短所がある。これは重点方針
とする「問題の可視化と解決の早期化」を難しく
する。この問題に対処しプロジェクト全体の円滑
な運営を図るのためにPMO(Project Management Office)を設置した。
PMOは、管理型側面の活動(プロジェクトに関
する情報の収集、分析、提言などの活動)を行う
グループとして設置し、そのメンバは、駅務業務
および関東共通乗車カードシステムに詳しい開発
マネージャをリーダーとし、開発支援部門スタッ
フ数名および社外コンサルタントで構成した。今
回、大規模なマトリクスマネジメント体制やPMO
の設置は我々にとって始めての経験であったため、
社外コンサルタントからの適切なアドバイスは非
常に有用であった。
2. マネジメントプロセスの充実
プロジェクト進捗や状況を的確に把握し早期に
対処するためには、マネジメントプロセスの充実
がキーとなる。PMBOK®ではプロジェクトマネジ
メントの9つの領域を紹介しているが、本プロジェ
クトでは、スケジュール管理、課題管理、リスク
管理、仕様変更管理、構成管理、品質管理の6つの
マネジメントプロセスの実行に重点を置いた。
本プロジェクトにおけるマネジメントプロセス
の実行推進は、PMOが中心となった。PMOは、
マネジメントプロセス記述(メンバの役割と作業
を記したもの)と使用帳票を定義した文書を作成
し、繰り返し関係者への教育を行いながらマネジ
メントプロセスの徹底を図った。
1)スケジュール管理
本プロジェクトはマトリクスマネジメント体制
をとっているため、縦横2つの視点で進捗状況を可
視化する必要があった。そのため進捗情報をデー
タベースに蓄積し、縦横の視点で進捗状況を示す
ことができる市販のプロジェクト管理ツールを利
用した。スケジュール管理の全体像を図2に示す。
2)課題管理
課題管理は単純な仕組みではあるが、往々にし
て課題を挙げることが主となる傾向があり、対策
完了までの追跡と継続が難しい。本プロジェクト
では、課題管理作業を現場のリーダではなくPMO
が担うことで確実な実行を狙った。
3)リスク管理
問題が発生した際の迅速な対処(消火活動)は
当然であるが、プロジェクトマネジメントとして
重要なことは問題が大きくなる前に(具現化する
前に)対処すること(防火活動)である。プロジ
ェクトマネージャが適切な防火活動を判断するに
は、現場で起きている問題やリスク(心配事)を
的確に抽出することが必要であり、そのための仕
組み(リスク管理)をプロジェクトに組み込んだ。
リスクを効率的に抽出するため、重要なリスク
要因を列記したプロジェクト専用のリスク管理シ
ートを作成した。また、多くの意見を聞くために、
開発メンバとは第三者的な位置となるPMOがヒヤ
リングを担当した。そしてリスクの可視化と継続
的な変動を捉えるため、リスクの重大性とともに
リスク状態の変化をグラフ化し追跡を行なった。
4)仕様変更管理
本プロジェクトでは機器個別の開発案件と共に
複数の開発案件に影響するシステム共通仕様を取
り扱う必要があった。そこで仕様変更の影響評価
を慎重に行うとともに変更内容を確実にかつ迅速
に伝達するために機器仕様とシステム仕様それぞ
れについて、変更の受付けから判断、決定、伝達
までの仕様変更管理プロセスを定義し、徹底を図
った。
5)構成管理
開発への重要なインプットとなるシステム仕様
書に焦点を絞り、その版管理プロセスと利用環境
の構築に取り組んだ。
6)品質管理
品質管理では、開発中の品質作りこみ状況の確
認とテストにおける不具合管理の徹底に取り組ん
だ。開発中の品質作りこみ状況の確認では、主に
開発活動や成果物のデータを用い、開発プロセス
の妥当性評価(レビュー)を行った。また不具合
管理では、不具合管理ツールを自作し、不具合発
生と対策状況の可視化に取り組んだ。
3. マネジメント支援ツールの導入・活用
本プロジェクトでは、管理対象とする作業単位
(開発案件、課題対応案件など)数が多いため、プ
ロジェクトマネジメント情報の効率的な収集や蓄
積、活用にはツールの支援が必須であった。しか
し、安易なツール導入は逆にプロジェクトを混乱
させる恐れがあるため、次のような点に留意して
支援ツール(環境)の導入、構築を進めた。
①導入・活用リスクが少ないこと。即ち、実績が
ありすぐに使えること
②導入・活用コストが低いこと。プロジェクトメン
バ自らの環境(慣れている環境)で使えること
③マトリクスマネジメント体制に適していること
結果としてインターネット環境を基盤とし、マ
トリクスマネジメントのスケジュール管理に対応
したツールの導入の他、自作でのツールを組み込
んだマネジメントシステムを構築した。図4に本プ
ロジェクトにおけるマネジメントシステムの全体
像を示す。
 導入効果  本プロジェクトは、当初の予定通りに遅滞無く
期日に終えることができた。また品質面では、市
場不具合の発生率が過去の類似プロジェクトとの
比較で1/20、さらに開発工数も計画時の5%減と
いう結果で終えることができた。
本プロジェクトでは、プロジェクトを失敗させ
ないために様々な活動を実行しており、どのよう
な取組みが有効であったかを分析的に示すことは
困難であるが、プロジェクト終了後に実施したプ
ロジェクト成功要因についてのアンケート結果を
みると、早期問題の可視化と対処のために取り組
んだ活動に関して、プロジェクトメンバからも評
価されていたことがわかる(関連項目②、⑦、⑧、
⑨)。アンケート結果をまとめたものを以下に記す。
【プロジェクト成功要因(関係者アンケートから)】
● 早期段階でのプロジェクト戦略策定と実行
①準備プロジェクトにより早い時期から技術戦略
や開発戦略が立案された
②プロジェクト全体に関わるリスク(テスト戦略、
要員確保)が早い段階で対策できた
● 仕様策定に対する重点的な対応
③仕様の共通化により、開発ロスを防止できた
など
● プロジェクト管理体制の構築
④設計のロケ-ション一体化によりコミュニケー
ションがうまくおこなえた
⑤SE/設計PMOなどの専任化が機能した
⑥支援組織(PMO)により設計に専念できた など
● プロジェクト管理の仕組み構築と継続的な実行
⑦リスクや課題の吸い上げが行われた
⑧グループ間の調整が計画されてプロジェクトの
開始から終了まで継続して実施された
● プロジェクト管理ツールの活用
⑨情報の配布、ツールの活用などによりリーダ・
関係者で状況の共有化ができ、問題の絞り込み
が効率よく実施できた など
● システム検証に対する重点的な対応
⑩事業部あげて協力的でテスト機器などが充分に
確保できた
⑪システムテスト環境、会議室が確保できた な
ど
● プロジェクトのビジョンの共有化や動機付け
⑫危機感が浸透し全員が協力的になった
⑬組織部門とプロジェクトが一体となって意思決
定が迅速に行われた
⑭過酷な中にも笑いがあり救いとなった など
 まとめ  以上、大規模なシステム開発プロジェクトを混
乱させないために問題の早期可視化と解決に着目
して行った取組みと成果について紹介した。成功
に寄与したとされた項目(アンケート結果)では、
今回紹介した取り組み以外にも多くの指摘があが
っている。PMO導入の効果としても設計に専念で
きたといった予想外の項目もあった。アンケート
結果では、技術的な点よりむしろプロジェクトの
構造面および人的側面への指摘が多い。これは大
規模なプロジェクトにとって構造(体制)や人間
重視の施策(プロジェクトマネジメント)が如何
に重要であるかを示しているといえる。
本プロジェクト終了後、プロジェクトの活動成
果や教訓をまとめ(PMO活動の成果物だけでも
1388ファイルになった)、発表会などを通じて社
内他部門への展開を進めている。
今後、駅務業界においてもますます大規模で複
雑なプロジェクトが増えていくであろうと予想さ
れる中、組織の高度なマネジメントプロセス実践
能力とともにマネジメントスキルを持つ人材の育
成が急務であると思われる。
 プロファイル 
オムロン株式会社
- 所在地
本社:〒600-8530 京都市下京区塩小路通堀川東入
東京本社:〒105-0001 東京都港区虎ノ門
3丁目4番10号
- 代表者
代表取締役社長 作田 久男
- 主な事業内容
● 制御機器、FAシステム事業
・コントローラ関連機器、モーションコントロー
ル機器、センサ等
● 電子部品事業
・スイッチ、リレー、コネクタ等
● 車載電装部品事業
● 金融・公共・交通ソリューション事業
・電子決済システム、駅務システム(自動券売
機、自動改札機、自動精算機等)、交通管理・
道路管理システム等
など
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