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キリンビール株式会社(現・キリンファーマ株式会社) 新薬開発プロジェクト プロジェクトマネジメント導入事例   

 新薬開発プロジェクトプロジェクトマネジメント導入事例 
医療用医薬品は、厚生労働省に承認され市場に出る(上市)までに9~17年の歳月
と数百億円という膨大な費用がかかっている。しかもその成功確率は一般的には5千
~1万分の1と言われ、開発段階だけを見てみても、約85%のプロジェクトが中止さ
れていると言われている。製薬企業にとって、プロジェクトマネジメントを適用する
ことは、プロジェクトの目標を達成するためであることが第一の目的ではあるが、可
視化されたプロジェクトの情報などから、大多数を占めるいずれ中止・中断となるで
あろうプロジェクトをいかに早く止める判断ができるかということも期待されている。
以下では、キリンビール株式会社医薬カンパニーにおけるプロジェクトマネジメン
ト導入を例に、それらの取組みについて解説していく。
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 導入背景  先進のバイオテクノロジーを駆使した医薬品の
開発と自社販売を目標に活動を続けている、医薬
事業への本格参入が20数年前という比較的若い医
薬兼業メーカーである。ただし、他社には無い得
意分野を持ち、2003年度(単体)での売上高は
600億円弱と大手製薬企業の売上規模までには到
達していないものの、毎年確実に売上を伸ばし、
10年前と比較すると200%以上の成長を遂げてい
る。
研究を開始した当初は組織の規模も大きくなく、
例えると周りを見渡せば全員の顔を見ることがで
きるような環境で、また新規参入という背景から
も、ひとつの目標を共有し、非常に高いモチベー
ションを持って進んでいくことが可能となるよう
な、まさにベンチャー企業のような状況であった。
導入背景当然意見の対立等はあったものの、目標達成のた
めの前向きなものばかりであり、チームとしての
まとまりは常に高いレベルにあった。そして参入
から8年近くを経て、第1号医薬品を誕生させると
いう成功を収めている。
順調な業績の伸びに合わせ、研究所・工場の新
設、組織の整備、採用も活発に行なわれ、事業部
としての規模も徐々に大きくなり、プロジェクト
マネジメント導入が決定された当時には(2002
年1月時点)約1,100名の社員(MRおよび契約社
員を含む)を抱える規模となっていた。
 導入前の課題  ■「昔のやり方が通用しない」
開発にかかわる全てのメンバーの性格や趣味、
家族構成までを知り、毎日顔を会わせられるよう
な状況では、「気づいた人がカバーする」といった
築き上げられた人間関係だけで十分に業務を進め
ていくことが可能であり、そのやり方で成功を収
めることもできた。ところが規模の拡大に伴い社
員は増加・多様化し、業務(場所)も地理的に分
離され、組織にもそれぞれの役割が明確化され、
採用者は初めからそれらの組織に配置されるとい
った、企業の通常の成長過程において、過去のや
り方が通用しなくなってきていた。
■「多くの製薬企業も抱える課題」
組織が機能ごとに整理されたことによって、年
度目標、予算なども組織ごとに立案され、全てが
組織中心となって運営されるようになっていった。
「全体最適」ではなく、いわゆる「部門最適」にな
り易い環境へと進んでいったのである。ただしプ
ロジェクトは何ら変わらず複数の機能組織を跨っ
て実施されていたため、プロジェクトの思惑と部
門の思惑が一致しない等、プロジェクトと部門間
でコンフリクトが発生していた。
■「人に依存したマネジメントによる課題」
製品ライフサイクルの全般に明確な責任を持つ
部門は存在していた。しかし、要求されるマネジ
メント範囲が非常に広く多岐にわたるため、その
担当者の出身(研究、開発、マーケティング、生
産など)によって、マネジメントの細かさ、深さ
がバラバラになっていた。いわゆる俗人的なマネ
ジメントが行なわれていた状況ではあったが、客
観的にはこなすのが困難な程の質と量のマネジメ
ントが一極に集中した結果と見て取ることができ
た。
■ プロジェクトマネジメント導入の目的
プロジェクトを実施する上で顕在化していた問
題の解決はもちろん必須ではあったが、プロジェ
クトマネジメント導入の本質的な目的として、「プ
ロジェクトマネジメント手法、ルール、ツールを
導入し、同時並行する多くのプロジェクトの全体
的な透過性(スケジュール、費用、要員)を向上
させ、すばやくかつ的確なプロジェクトの新規投
入、既存プロジェクトの促進、抑制、廃止の意思
決定ができるようにする。」ということがトップマ
ネジメントの口から言われていた。
 実施内容  アルテミスが考えるソリューションの全体像が
エンタープライズ・プロジェクトマネジメントで
あることには何ら変わりは無い。しかし、その詳
細部分での内容、そこへ到達するまでのステッ
プ・スピードについては企業ごとに違って当たり
前であり、さらにはそれらの内容を顧客とともに
合意し、作り上げないことには、最終的に顧客の
物にはならない(定着しない)という強い信念を
持っている。今回の場合も解決すべき最重要課題
のひとつとして、「要員の負荷管理」ということが
言われていたが、その課題だけに着目するのでは
なく、まずは顧客の状況を把握し、ソリューショ
ンの具体的な内容を作り上げていった。
■ フェーズⅠ実施内容
まずはプロジェクトの実施能力を強化・向上す
るための取り組みとして、以下について、図5の体
制を構築し実施した。
-プロジェクトマネジメントプロセス(フロー、
会議体定義、役割と責任・権限)の整備
-業務プロセス(WBS:Work Breakdown
Structure)の整備
-プロジェクトマネジメントシステムの導入(ス
ケジュール、課題、リスクのみ)
-プロジェクトマネジメント教育
本来、この段階でのシステム導入は時期尚早と
思われがちであるが、プロジェクトマネジメント
を実施する上で状況判断に必要不可欠なプロジェ
クト情報を可視化するためのシステムのことを一
切考慮に入れずにプロジェクトマネジメントプロ
セスおよび業務プロセスを整備してしまうと、プ
ロジェクトではなく業務プロセスをマネジメント
するもの(SOPに近く細かすぎるもの)となって
しまい、システムに載らなくなってしまう可能性
があるため、決して時期尚早とはいえない。また、
今までのプロジェクトマネジメントが、「順調で
す。」、「予定通りです。」、「なんとかなります、な
んとかします。」など、人からの報告によって判
断・実施され、多くの場合その通りになった試し
がないことからも、早期のシステム導入は多くの
局面で発生する曖昧さの排除につながると理解す
る必要がある。この顧客の場合、数多くの大規模
システム導入の経験を持つ担当者の存在によって、
将来発生する可能性のある、「使えないプロジェク
トマネジメントシステム」となりうるリスクを当
初から排除することができたことも今日につなが
っている大きな要因と考えられる。
■ フェーズⅡ実施内容
次にフェーズⅠで整備したプロジェクトマネジ
メントプロセス(フロー、会議体定義、役割と責
任・権限)に則り、業務プロセス(WBS:Work
Breakdown Structure)をプロジェクトマネジ
メントシステムにデータ移行してパイロット的に
プロジェクトマネジメントを実施した。パイロッ
ト運用の実施内容については以下の通り。
-対象プロジェクト:2
-組織:プロセスの評価のため、仮想プロジェク
トマネジメント室を設置し、プロジェク
トマネージャ2名とアシスタントを配員
-プロジェクトメンバー:30名程度(各部門から)
-パイロット期間:6ヶ月
-マネジメント内容:
プロジェクトマネジメントフローの
「立上げ」、「計画」、
「実施」、「コントロール」の内容
-評価方法:アンケート(Web)
顧客(プロジェクトマネジメント室)評価(抜粋)
1.パイロット運用を通して認識したPMしくみ
導入のメリット(期待効果)
(省略)
2.PMしくみ導入における課題
(省略)
3.“開発生産性向上”のための課題整理(改
善提案を含む)
(省略)
4.最後に
上記のようにパイロット運用に携わった関
係者からは、本しくみの本格運用の期待も
高く、スケジュールマネジメントのしくみ
だけでも、早期に全展開し本しくみを定着
させていくことが開発生産性向上に繋がる
と確信している。今後とも各部門の協力を
仰ぎ、運用しながら改善を行なっていきた
い。
また、プロジェクトマネジメントしくみ導
入を機会に、プロジェクトメンバー同士が
頻繁な情報交流を通じ、相手の立場を理解
した人間関係の構築、企業文化・風土(戦
略思考、リスクマネジメント意識、コスト
意識等)の改革も目指していきたい。
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表1
このパイロット運用を実施するにあたっては
「必ず良い評価を得て、成功させること」を必達課
題とし、トップマネジメントに同席してもらって
のプロジェクトメンバーへの説明会、操作トレー
ニング開催等、準備自体にもかなりの時間をかけ
ている。またパイロット運用が開始されてからは、
プロジェクトレビューミーティングへ出席し、疑
問点などへの即時回答、ヒアリングの実施、改
必須と判断された事柄については運用終了を待た
ず即時対応を行うなど、特にプロジェクトにかか
わる関係者の大多数を占めるプロジェクトメンバ
ーの不満が蓄積しないような取り組みを行なって
きたことが表1にも現れていると認識している。
■ フェーズⅢ
フェーズⅡを終えて、開発移管後のスケジュー
ルを中心としたプロジェクトマネジメント実施に
向けての準備は概ね整った。当初の計画ではフェ
ーズ」はプロジェクトのリソース&コストマネジ
メント適用に向けての取り組みを予定していたが、
全てのプロジェクトにプロジェクトマネジメント
を適用すべく、プロジェクトマネジメント室の正
式設置と設置に伴う関連部門との役割・権限の整
理、会議体の整理など企業レベルでの取り組みが
行なわれた。また各プロジェクトのプロジェクト
マネージャ、メンバーが正式に任命され、プロジ
ェクトデータのシステムへの移行も同時に行なわ
れた。上記の部分は顧客主導で行なわれた内容で
あるが、もうひとつの柱として「生産関連業務の
業務プロセス(WBS)構築」を実施している。そ
の理由としては、例えば治験薬供給元としてプロ
ジェクトの進行に大きな影響力を持つ生産関連部
門の担当業務が、開発業務のスケジュールと同じ
土俵(システム)で見えることによって、「本当の
意味でのプロジェクト(スケジュール)の可視化」
が出来ると認識されたからである。フェーズ」の
終了時点では、主要なプロジェクトについて生産
関連業務のスケジュールが入れられており、運用
が開始されている。
■ フェーズⅣ
2004年7月からはフェーズ」で計画されていた
リソースマネジメント適用に向けての取組みが行
なわれている。経緯を振り返ってみると、2002
年のプロジェクトマネジメント導入決定当時の課
題に2年後やっと着手したということになる。ただ、
顧客も回り道をしたという認識は持っていないよ
うに感じられる。確かに、本フェーズで今まで使
ってきたWBSの見直しまで行なっていることを考
えると、回り道(手戻り)と捉えることは表面上
簡単ではある。しかし、「進捗を入力することは手
間が増えるだけで本当にメリットがあるのだろう
か」という不安の下、リソース負荷状況どころか、
作業自体の途中の状況を把握することも難しいマ
イルストーンを多用して整備された2年前のWBS
が、今回、何の抵抗も無く顧客主導で見直しでき
ていること、この意味を考えると、プロジェクト
マネジメントが着実に定着してきていること、今
までの取組みが決して回り道ではなかったことを
実感するとともに、リソースマネジメントの成功
を予感させるものとなる。
 導入効果  プロジェクトマネジメント導入のベネフィットにつ
いては、今後の期待する効果とともに顧客が顧客の
トップマネジメントに報告した報告書から引用する。
1.PMしくみ導入のメリット(期待効果)
PMしくみ導入(コンピュータシステム利用を含
む)により、効果が認められたこと、及び今後効
果が期待できることの中で、特に重要と認識した
事項を以下に挙げる。
-これまで、作成時期や作成者の異なる複数のス
ケジュールを参照し、認識のズレがみられてい
たが、PMしくみ導入により、常に最新の同一ス
ケジュールを関係者間で共有化できる。
-他部門の業務項目・進捗状況が把握できるため、
例えば、開発推進部、生産本部、薬事監査室な
ど臨床開発部以外の関連部門にとっては、臨床
状況が把握できその進捗に応じて対応準備がで
きるメリットは大きい。(これまでは、各治験実
施責任者に個別にヒアリングして別途スケジュ
ール表を作成していた。)
-課題・リスクを数多く抽出し、それに対する対
応状況が確認できるため、忘れ等により未対応
のまま放置されることが回避でき、また、早期
の対応準備が可能である。リスクマネジメント
思考の醸成が期待できる。
-メンバーにとっては、自分で立てた計画という
自己責任意識から納期を守ろうという意識が認
められる。また、より精度の高い計画立案の必
要性を感じている。
-プロジェクトの目標の共有化(キックオフでの
説明)により、各メンバーの認識のズレを軽減
し、共通ゴール(承認の内容及び時期)へのベ
クトル合わせ、チーム意識の醸成が期待できる。
-各プロジェクトの課題・リスク・アクションの
データベースを活用することで、各部門におい
てはナレッジマネジメント(失敗、成功体験の
他プロジェクトへの活用)におる組織機能向上
が期待できる。
-単にプロジェクト関係者のみならず、トップマ
ネジメント及び企画部門が各プロジェクトの状
況をタイムリーにデータベースで把握できる。
-トップマネジメント及び企画部門にとっては、中
長期的な開発計画の明確化により、要員・コスト
をより精度高く把握でき、対応準備ができる。
以上のように、PMしくみ導入の期待効果は非常
に高く、開発生産性の向上にとってPMしくみ導入
は必要不可欠であることが改めて認識できた。
 まとめ  本顧客については、現在もエンタープライズ・
プロジェクトマネジメント実現に向けての取り組
みが継続されている。次フェーズではコストマネ
ジメントが計画され、プロジェクトのタイム(ス
ケジュール)・リソース・コストの主要3要素が全
てシステム上で可視化されることになる。また、
「プロジェクトマネジメント手法、ルール、ツール
を導入し、同時並行する多くのプロジェクトの全
体的な透過性(スケジュール、費用、要員)を向
上させ、すばやくかつ的確なプロジェクトの新規
投入、既存プロジェクトの促進、抑制、廃止の意
思決定ができるようにする。」という最終目的達成
のために、プロジェクトの成果による評価、プロ
ジェクトマネージャの育成など、人事的な課題に
ついても積極的に取り組んでいく予定であること
を聞いている。
 プロファイル  キリンビール株式会社医薬カンパニー
- 所在地
本社:〒150-8011 東京都渋谷区神宮前6-26-1
支店:国内8支店
研究所:医薬探索研究所、医薬開発研究所、生産技術研究所
工場:高崎医薬工場
- 医薬カンパニー社長
常務執行役員浅野克彦
- 主な事業内容
医薬品の開発とその自社販売
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