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2008.10.13

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導入事例

キリンビール株式会社(現・キリンファーマ株式会社) 医薬R&Dプロジェクトポートフォリオマネジメント導入事例



創薬生産性を高めるために不可欠なR&D投資マネジメントを改善する


 製薬業界では、グローバルメガファーマ、国内企業問わず、合併・再編の大きな波にさらされている。その引き金のひとつが企業規模拡大によるR&D(研究開発)投資額の強化である。だが、それもR&Dプロジェクトの適切な「選択」と「集中」が行われなければ意味を成さない。
 「プロジェクトマネジメント」と共にR&Dマネジメントの根幹を成すのが「R&Dプロジェクトポートフォリオマネジメント(以下、R&D-PjPfM)」であり、その成否が、短期的なR&D投資効率の向上、そして、中長期的な企業の成長を決する。R&DPjPfM実現には、単にR&Dプロジェクトの評価指標を設定するだけではなく、評価を行い資源配分に至るまでのマネジメントプロセスやPjPfM全体を支えるITインフラの構築が重要である。
 以下では、キリンビール株式会社医薬カンパニーを例に、これらの取り組みについて解説したい。

導入背景


 国内製薬企業の多くは規模を問わず、R&Dマネジメントの「効率」と「精度」を如何に向上させるかに苦慮している。
 キリンビールは今から20年ほど前に医薬事業(現医薬カンパニー)を立ち上げ、複数のブロックバスターを上市させるなど順調に業績を伸ばしてきた。また最近では再生医療や抗体分野など新たな領域にも積極的に取り組んでいる。そして、規模の拡大に伴い、これまでの「医薬ベンチャー」を脱し、「製薬企業」への脱皮・転換を図ろうとしていた。その結果、「製薬企業」が対峙すべき問題、R&Dプロジェクトを如何に正しく進めるかという実施の「効率」、そして、如何に正しいR&Dプロ導入背景ジェクトを行うかという投資の「精度」、といった問題に直面したのである。
 キリンビール医薬カンパニーでは数年前から、医薬研究開発部門を中心としたEPM(エンタープライズ・プロジェクトマネジメント)による戦略からプロジェクト執行まで一貫した新たなマネジメント運用体制の構築を始めた。特に、非臨床以降の開発ステージでは、プロジェクトマネジメント制を導入し、R&Dの「効率」向上に対応しつつある。
 続いてR&Dの「精度」改善に向け、特に経営トップ(医薬カンパニー社長、副社長)は、R&DPjPfMの「仕組み」構築の必要性を強く認識していた。

導入前の課題


 導入に先立って現状の調査を行った結果、キリンビール医薬カンパニーでは次のような解決すべき課題が判明した。
1. プロジェクトの合理的な意思決定の欠如
 判断基準が不鮮明であることが第一の問題であった。つまり、プロジェクト評価やGo/No goの意思決定の評価手法が定まっておらず、結果的に個人の想い(研究者やトップ)に左右される部分があった。
 そこでキリンビール医薬カンパニーでも、プロジェクトのNPVによる定量的価値評価により、投資判断を実施しようとしたがうまくいかなかった。
 なぜなら、上市までの期間が通常10数年以上と非常に長い研究プロジェクトではNPVの信憑性にかけ、また、それはあくまでひとつの価値指標に過ぎなかったからである。
 従って、プロジェクトの価値そのものの評価とともに、戦略に沿った企業の短期及び中長期の発展を考えた打ち手を表す評価基準の構築が求められていた。
2. 研究投資マネジメントプロセスの混乱
 最終意思決定者はカンパニー社長であるが、その承認にいたるまでの段階や途中の調整は厳密に定められているとは言えなかった。研究プロジェクトやリーダーによって異なる承認・意思決定プロセスがとられる場合が見受けられた。
 もちろん、研究の進捗次第の緊急性を要する資源配分はその限りではないが、必要十分のステークホルダーが関与し、定められたプロセスによるプロジェクト評価と全体最適化が行われるようなプロセスへの転換が求められていた。
3. 人の意識の問題
 調査・ヒアリングの過程で、経営トップから、スタッフ部門、研究の現場メンバーまで、「研究投資マネジメント」に対する考え方、問題の認識に対する温度差が見受けられた。特に現場では、全社的な戦略に向かった研究の目標設定やその実現に向けたマネジメントの意識が希薄な場合もあった。
 このことは個人の問題もあるが組織や仕組みの問題がより大きい。従って、組織や仕組みを整備しながら、個人のベクトルをR&D組織全体のベクトルと合わせていくような動機付けも求められる。

実施内容


 キリンビール医薬カンパニーの事業戦略に即した医薬R&D投資マネジメント実施のため、R&DPjPfM体制構築の具体的検討を開始した。
 まずはR&D全体ではなく、研究(探索・創薬)ステージを導入検討の対象とした。それは、医薬カンパニーにとって研究ステージでの投資マネジメントの精度向上が危急の課題であり、また、出来るところから小さく始めて“Early Success”を獲得し社内的な認知を得た上で大きくR&D全体に展開するのが得策であると考えられたためである。
 研究ステージでの導入を最初のフェーズ1,2として、次のような改革を行った。
1. 研究プロジェクトの評価項目/基準及び、優先度付け/資源配分のロジックを構築
 これまで医薬カンパニーではプロジェクトのNPVを主体に投資判断を行おうとしたがそれだけではうまくいかなかった。従って、事業性評価だけではなく技術的評価と組み合わせた「客観的価値評価」及び「戦略的位置付け」といった軸、更に、スケジュールやコストの予実差異を見る「プロジェクト状況評価」を行うこととし、複数の評価指標を体系的にとりまとめた。その結果、ポートフォリオマトリクスによる多面的評価が可能になった(図1)。また、それを基にした優先度付け/資源配分の方法論の検討、更に、優先度付け/資源配分の検討・意思決定に必要となるアウトプット(帳票類)の検討・作成も行った。

 机上で構築しただけでは実務に使えるものとしての確証に乏しい。そのため、研究プロジェクトの実データを用いて、評価項目/基準及びマトリクスの検証を行った。その結果より必要な修正を加えることで、納得感があり且つ一過性ではないものになった。
2. 研究プロジェクトの意思決定マネジメントプロセスの構築
 既にある投資判断のプロセスを尊重しながら、より迅速に、且つ、角度の高い意思決定が出来るように、プロジェクト評価に必要となるデータの収集、ポートフォリオ調整等、新たなプロセス・会議体を付加したマネジメント体制を構築した(図2)。

 その結果、「誰は、いつ、何を…」といった行動規範が明確になった。
3. R&D-PjPfM実現のITインフラである Artemis 7 導入
 PjPfMを導入した際、投資マネジメント実務担当者であるスタッフ部門への負荷が 拡大することが十分予想された。多数ある研究プロジェクトの属性情報、評価情報、 そして、コスト、スケジュール、リソース等の情報を履歴で一元管理し、更に、データの 入出力を効率化するには、ITシステムの支援が必須であると考えられた。
 Artemis 7 は以上を解決し、PjPfMプロセス全体 の実施を支えるインフラという位置付けで導入が行われた。 また、Artemis 7 により、「エグゼクティブ・ビュー」機能によりポートフォリオ全体像の 可視化が可能となった(図3)。

 以上の検討は一部のメンバーだけで行われたのではない。マネジメントプロセスに関わるステークホルダー、つまり、経営トップからスタッフ部門、研究の現場メンバーまで、多くの人々が検討や検証に参加していただき、積極的な巻き込みを図りながら進められた。

導入効果


 キリンビール医薬カンパニーは、2004年後期よりPjPfMの本格活用を開始したばかりではあるが、導入検討、パイロット運用から含めれば今後の成果を期待できる感触は得られつつある。
1. 資源の有効配分を実現
 導入検討の段階で、実プロジェクトによる評価基準の机上検証やArtemis 7 による多面的な可視化を行うことにより、不要なプロジェクトの存在が浮き彫りとなり、別の有望なプロジェクトへ資源の再配分等に繋がることが今後は期待される。
2. 組織横断的な情報共有の活性化
 研究関係者間でプロジェクト情報及び意思決定情報の共有が可能になったことも見逃せない。それにより経営トップが自社の研究プロジェクトの全体像を俯瞰することが可能になっただけではなく、研究の現場(リーダークラス)が自分のプロジェクトの位置付けを確認出来るようになり、更に評価に対する納得感も生まれた。それは長期的に見れば、研究活動そのものの活性化にもつながると考えられる。
3. スタッフ部門の意思決定会議体向け資料の準備時間の削減
 データの入力・集計は、Artemis 7 を核として、研究の現場、スタッフでの分担が可能になった。また、Artemis 7 の経営トップ向けの全体像可視化アウトプットの自動作成機能(ポートフォリオマトリクスやテーブル形式のスコアカード作成)により、かなりの準備作業時間が削減されたと考えられる。今後、データマート機能によりArtemis 7 のデータベースから、この会社独自の意思決定支援帳票を自動作成するようになれば、担当者がその度に別に帳票を作ることがなくなり、さらに負担は軽減されるであろう。

まとめ


 キリンビール医薬カンパニーは、研究ステージを対象としたPjPfM実施への取り組みで一定の成果を上げることが期待される。研究での投資マネジメントはこれまで「経営トップの勘」や「研究者個人の発想しだい」と判断がブラックボックス化していたものに対し、「製薬企業」として必要な意思決定マネジメント体制の基礎が構築できたといえよう。
 今後は、研究での必要な改良を加えつつ定着を図りながら、開発ステージへの展開、そして、開発プロジェクト・マネジメントとの連携と、包括的な医薬R&D-PjPfMへの発展が期待される。

プロファイル


キリンビール株式会社医薬カンパニー
- 所在地
 本社:〒150-8011 東京都渋谷区神宮前6-26-1
 支店:国内8支店
 研究所:医薬探索研究所、医薬開発研究所、生産技術研究所
 工場:高崎医薬工場
- 医薬カンパニー社長
 常務執行役員浅野克彦
- 主な事業内容
 医薬品の開発とその自社販売

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